オンライン診療の歴史と

当院の取り組みについて

もともとオンライン診療は離島や僻地など医療過疎の地域に切望されて認められてきたという歴史があります。
 
ことの発端は1997年、まだ「オンライン診療」という言葉が生まれる前、オンライン診療がまだ「遠隔診療」と呼ばれていた頃、当時の厚生省が遠隔診療を「離島・僻地の患者」「特定の慢性疾患の患者」「原則初診対面」という条件付で正式に認可したという出来事でした。しかしこの当時はまだテレビ会議やビデオチャットが一般的ではなかったということ、そうは言っても離島や僻地という非常に限定的な場面に絞られていたということもあって、遠隔医療はそれほど普及しない冬の時代が続きました。
 
状況が動いたのは2015年8月10日、厚生労働省から一本の通達が各医療機関に送られました。その内容は1997年の遠隔診療について示された条件はあくまでも例示に過ぎず、それ以外の条件の患者に対しても医師の判断のもと、遠隔診療を行っても問題ないという事実上の遠隔診療解禁通知だったのです。そこから遠隔診療にまつわる議論が急速に進展し、ついに2018年3月診療報酬改定のタイミングで遠隔診療は「オンライン診療」と名を変え、保険診療でも正式に行えるようになったのです。
 
ところがここから先にも問題がありました。保険診療で認められるオンライン診療にはさまざまな厳しいルールがあったのです。たとえばオンライン診療を適用してよい病気が限られていたり、概ね30分以内に来院できる人にしかできなかったり、です。中でも最も大きな制限は「オンライン診療を初回から実施してはならない」というものでした。それというのも国が認めるオンライン診療は、あくまでも「対面診療の補完的な役割」としてであり、基本的に対面診療を行うべきであるという考えがあったからです。その厳しいルールによって、当初の発想であった離島や僻地のように物理的な距離が大きく離れた患者に対して「オンライン診療」を行うことに対しては、むしろブレーキがかかった形となってしまったのです。
 
勿論、保険診療として認めた国の立場としては、オンライン診療の普及に伴うトラブルを最小限にしたいという思いがあって慎重姿勢をとってのことでしょうし、対面診療が医療の基本であることは間違いありません。しかし私はオンライン診療が「対面診療の補完」という発想には見直しが必要だと考えています。オンライン診療は「対面診療とは別のニーズを満たすべきもの」であり、むしろ対面診療では叶えられないニーズを満たすために積極的に発展させていくべき新しい医療のカタチだと私は考えています。そうでなくては、元々の発想の原点である離島や僻地医療への貢献に叶うはずもありません。
 
医療である以上、オンラインであろうとなかろうと、トラブルをゼロにすることなどできませんし、対面診療にしていればトラブルがなくなるというわけでは決してないのです。オンライン診療であろうと、対面診療であろうと急変対応は緊急でできる限りの対応するという方針に変わりはありません。むしろ救急要請ができない、もしくはできたとしても病院搬送まで非常に時間がかかる離島や僻地においては、オンライン診療という選択肢が一つ増えることによって患者が救われる可能性が高まるのではないでしょうか。大事なことは、オンライン診療を行うに当たって、患者に対してどのような内容の診療が行われるか、それに伴うメリット・デメリットの情報が適切に開示され、患者もそれを了解しているということ、患者が情報をもとにメリット・デメリットを理解した上でオンライン診療を利用するかどうかを自由に選べるということ、そしてオンライン診療を提供する医療者側は、とにかくトラブル最小限となるよう最大限の配慮を行うということだと私は思います。
 
だからこのまま当初の発想が置き去りにされたまま、オンライン診療を普及することのリスクばかりを気にしてしまう消極的な雰囲気を打破するべく、むしろ保険診療でのルールに縛られない形で本来のオンライン診療の果たすべき役割を追求するために、2019年10月私は完全自由診療でのオンライン診療専門のクリニックを開設いたしました。

ところが2020年に入り新型コロナウイルス感染症の拡大が世界的な問題となり、オンライン診療についての風向きは一気に変わることとなりました。それは2020年4月には厚生労働省より、それまでの保険診療でのオンライン診療を大きく変えるルール改正がなされました。ひとつは医師が認めればどんな状態に対してオンライン診療を行うことができるということ、もうひとつは初回からオンライン診療を行ってもよいというルールです。当初私が自由診療で開拓しようとしていたオンライン診療の適応の壁を、奇しくもコロナ騒動が開拓したカタチとなったのです。

そして当初このコロナウイルスの感染拡大が収まるまでの時限措置として認められた臨時のルールでしたが、なかなか収束の様相を呈さない状況を受けてこの時限措置の適用が長期化してきている実情があります。そこで当院でも2021年6月から保険診療を取り入れる運びとなりました。

しかしながら保険診療の場合、診療報酬制度の関係でオンライン診療は通常の診療に比べて診療報酬が低く設定されている実情がありました。また保険診療でのオンライン診療を利用される患者さんの多くは薬を手軽に処方してもらいたいという要望が多く、私が目標としている患者さん自身の主体的な行動を促す医療を実現することは難しいということもわかりました。紆余曲折を経て、当院での保険診療は2023年5月末で終了し、2023年6月より当院は再び完全自由診療でのオンライン診療に徹する方針となりました。